簡単な梨子地銀粉蒔絵
 ー初めにー

「うるし」は英語で何と訳されているのかか。和英辞典で調べると、訳語が「Japan」となっており、なぜ?狐につままれたような不思議な感じをうけます。漆器が日本人の生活に密着しており、その機能性と美しさは群は抜いています。芸術の領域まで高めたこの技術を外国人が評価して「Japan」としたのだろう。日本人の中でもとりわけ蒔絵は心奪われる憧れの対象です。外国人が「うるし=Japan」と定義付けたのも蒔絵の美しさがその一因であると思われます。。                                                                                            和竿を作る誰もが、一度は愛竿に蒔絵を施してみたいと思うのはごく自然です。本漆だけでなく新漆を使って、比較的簡単に蒔絵を施す方法を紹介したい。それは梨子地蒔絵(なしじまきえ)と呼ばれています瑣末なことですがが、初めて蒔絵をやる方は本番用の他に練習用の竹を用意して、同時進行の形で制作する事をお勧めします。

塗面に蒔くのは銀粉という金属です。失敗しこれを剥がすのは金属用のヤスリを使います。その跡地は見るも無残な姿になります。練習用の竹でまず試してみることが必要と思われます。。


 
1 準備
 
[左から] 寒冷紗、 砥の粉(砥石を取り出す時の粉)、地の粉(能登の土)、糊漆材、漆(生正味漆、梨子地漆、呂色漆)
       

 [左から]漆研磨剤(砥石、炭、耐水ペーパー木組み)、簡易銀箔、粉筒と梨子地銀箔、簡易常盤(厚ガラスと赤い布)
          

▲寒冷紗は園芸店で扱っている。竿作りでは絹糸を巻くので緊急に必要ない。


▲砥の粉、地の粉は漆芸店、東急ハンズで扱っている。


▲上新粉は食料品店で。


▲砥石、炭は東急ハンズでも揃えているが、漆芸店での購入をお勧めする。


▲漆、粉筒、梨子地銀粉の購入は上記と同じ。普及用銀粉は釣具店。


▲耐水ペーパー用木組みは自作。ペーパーを適当な長さに切り、溝に挿入後上蓋で固定。


▲厚ガラス板下に赤の布地や紙を置くとすぐ漆定盤となる。漆の色は黒か茶系統である。下が赤色だと漆の調合が大変やり易くなる。漆塗りの上達にもつながる。


▲下記の文に「生漆」を使うと出てくるが、もちろん瀬〆漆を使っても同じである。
 


2 蒔絵の制作過程
(和竿の場合Dから)
 
▲ 竿の下地作りには二通りのやり方がある。竹の地肌に下地を作り、その後で糸を巻くやり方。糸を巻いた後その上に下地を作るやり方。私は八割方後者の下地作りをやっている。



▲下地作りには生漆を使う。生漆は20〜30%水分が含まれる。水のようにさらっとしているので溶剤(片脳油)は入れなくてよい。一方新漆は透明漆を使う。この新漆は水分量が少ないため固い。溶剤を混ぜた方がよい。



        
 

(1) 下地作り(写真1〜3)


@ー布着せ(写真1)(竿の場合は糸を巻いて、漆による糸極めをすること)                  お盆やお椀の漆塗りでは、その生木地に直接漆を塗ると、「痩せ」という現象を起こす。生木地の表面下に入り込んだ漆はその強烈な収縮性によって、木目を収縮させ窪みとして現れる。これを「痩せ」と呼んでいる。                                                            これを防ぐために寒冷紗を糊漆によってバイヤス(斜め布)に貼り付け、木地表面を強固にする刷毛やヘラは使わずに両手で張り付け、指の丁寧な動きで寒冷紗が波打たないようにする。バイヤスに張るのは、建物の筋交いと同じで、木地の強度を増すため。


▲糊漆(姫糊0.5、砥の粉1、生漆0.5、水0.5の割合)。(これ以後数々の数値が出てくるが目安に留めて下さい)。定盤上に姫糊以下必要な材料を置き、ヘラ(DIYのプラスチックヘラで可)でよく練り合わせる。竹の場合は、表面の甘皮下は繊維質に覆われている。漆液の入る隙間があまりないため、「痩せ」の現象はごくわずかである。試験的に新子の竹の柔らかい所に漆を塗ると、かすかに曲がってしまう。


Aー布目摺り(ぬのめずり)(写真2)(竹の場合省いてもよい)

布着せが終わってから、表面を平坦にするために砥石で空研する(水を使わない)をする(上の写真で紹介した木組みを用いて、耐水ペーパー#150をセットして空研をしてもよい)。そのため糊漆は削られ、寒冷紗の布目が表にでる。布目が表に出ないように、「切り粉」をヘラで塗りつけていく。切り粉は乾く強固になり、まるで石の表面のようになる。


▲切り粉(姫糊0.5、砥の粉1、地の粉1、生漆0.5.水0.5)
室に入れて乾いたら、スルガ砥石または耐水ペーパー#150を木組みにセットして、今度は水研ぎをして平らにする。



Bー
錆漆付け(さびうるしづけ)(写真3)

布目摺りを水研ぎしてある程度平坦にしたとはいえ、表面はザラザラで深い凹凸がある。この凹凸を埋めるための作業が錆付けである。


▲砥の粉1、生漆(瀬〆漆で可)0.5、水0.5


砥の粉は、砥石を切り出す時の粉で微小なものである。手に取ると柔らかく、指先からするりと滑り落ちる。漆を混ぜて凹凸面に塗っていくと、わずかな隙間まで侵入してくれるので平坦な塗面ができる。これもヘラ(DIYのプラスチックヘラで可)で塗りつけていく。ヘラを左右前後に動かして、むらの無い塗面を作る。室で乾かしたら、強固な面を作るために生漆をヘラや刷毛で塗っておく。室に入れて乾かす。


 
研ぎについて[番外]


▲「竿は円柱形であり、平面の研ぎ方では通用しないのではないか」このような誤解を解いておきたい。長方形を360度回転させると円柱になる。ミクロ的には円柱は平面と言ってよい。だから平面用の研ぎ炭または平面用の木組みを使う。


▲スルガ砥石や朴炭等炭を研ぎとして使う場合、荒目の砥石を水を置き、[研ぐ→砥石で炭を平らに→研ぐ]の繰り返しで作業を行う。


▲研ぎむらが出ないように、炭であれ木組みの耐水ペーパーであれ円を描くように動かしていく。

 
刷毛について[番外]


▲漆刷毛は一寸と五分の二つは揃えたい。また上塗り用と中塗り用があるが、上塗り刷毛は高価であり
中塗り用刷毛があればよい。


▲絵の具用刷毛を使うのであれば、色々な幅の刷毛を揃えたい。肝心なことは、専門店で揃えることである。刷毛は様々の目的でヘラによってしごかれる。毛の抑えが強固でないと、すぐ毛が抜けてしまう。ま
た安価な刷毛は毛が縮れることが多い。やはり専門店で揃えることをお勧めする。


 
刷毛塗りについて
[番外]


▲刷毛は竹の塗面横幅より広いものを使う。横幅より狭かったり同じだったりするとは、乾いた時「刷毛目」が現れる。研ぐときに大変厄介である。


▲本漆の場合、道具箱から取り出した刷毛は植物油がたっぷりついているはずである(使い終わった刷毛から漆を油によって除去するため)。これから使う漆を定盤に出して、刷毛を漆に浸しヘラで4,5回油をこすり取っていく。もし刷毛に油分が残っていれば永遠に乾かないか、乾くのに4,5か月要するかである。 

新漆の場合、前回塗り終わったところでテレピン油で漆を除去している。念のためもう一度テレピン油で刷毛を掃除した方が無難である。


▲塗りを予定している面に刷毛で3,4個所漆を配っておく。その後竹を回しながら、刷毛を下から上へ螺
旋状に進めていく。これで一応塗面に漆が行き渡ったが、濃い薄いの違いが大きい。そこで刷毛を下から上へ、次に上から下へと何回も運び均等に漆が塗り渡るようにする。


▲竿作りの最初の時期は、早く完成が見たくて漆を厚塗りする傾向がある。これだと、本漆の場合は漆の
強烈な収縮率によって表面が山のようにせり上がってしまう。「縮み」と呼んでいる。



▲全部の塗が終了したら、本漆の場合は刷毛を植物油に付け4,5回ヘラで漆をしごき去る。新漆の場合は茶碗にテレピン油を出しておき、刷毛をそれに浸したら、ヘラまたは布地で漆を完全に取り去る。少しでも刷毛に漆が残ると、刷毛が固まり使い物にならない物になってしまう。




漆を濾す
[番外]

漆全般不純物がたくさん入っている。不純物を取り除かないと、漆本来が持っている色艶が見られない・
吉野紙という専用和紙で漆を濾(こ)していく。新漆も同様である。

▲生漆(瀬〆漆)は不純物が他の漆より多いが、使い道が錆漆、糊漆、下塗りなどであることから大きな
物を取り除くだけでよい。漉し紙2,3枚重ねて濾す。


▲黒漆(黒中漆)(写真5で使用)は、生漆10に対し,油煙(菜種油から採る)0.5の割合になっている。不純物も少なく中塗りで使われるので、3,4枚の漉し紙で濾すことでよい。


▲呂(ろ)色漆(写真5で使用)は上記と同じ黒色ながら、酸化鉄の粉末顔料が入っている。仕上げ塗りに
使うことが多いので5,6枚の漉し紙で濾すのがよい。時には更に漉しを繰り返す。


▲梨子地漆(写真7)は銀粉を金色に輝かせる漆であり、植物性の黄色い染料が入っている。漉し紙5,
6枚で濾していく。


[朱漆について]
私の作る朱漆は、生漆にカドミウム朱顔料を混ぜ合わせたものである。生漆10に対して、カドミウム朱7
の割合で、上記の黒漆の0.5と比べて顔料の比率が断然高い。そのために、作り置きしてある茶碗から出すたびに漉し紙5,6枚で濾す。濾し方が不十分だと光沢がでない。難しい漆である。




(2) 下塗り(写真4)



@ー下塗りは生漆を使う。[塗る→乾かす→研ぐ→塗る]の連続である。溶剤は、先に進めば段々量を減らす。つまり薄目の漆でよくなる。完成は和紙の表面のようになっていれば良い。凹凸があるか無いかを調べるにはラップが役立つ。ラップを指に巻き塗面を触ると凹凸が皮膚に伝わって来る。凹凸があるようであれば作業を続けなくてはならない。


Aー新漆では黒漆を塗って下塗りと中塗り同時としてもよい(写真4とD)。先に触れたように、新漆は水分量が少なく固いので溶剤の量の多少についての判断は難しい。要は上記のように和紙の表面のようになっていれば良い。つまり多少ザラザラ感があっても良い。


Bー
研ぎの道具は、炭は朴炭、耐水ペーパーは#800が適当であろう。
[研ぎ→塗り]の繰り返しで塗面が和紙の面のように平坦に近づいて来れば、炭は駿河炭、耐水ペーパーは#1500にしていく。



[左から]  漉(こ)し紙[吉野紙]、 漉し紙三枚を重ねて漆の夾雑物を除く


           


上の写真と同じ 
 

(3) 中塗り(写真4)−1 黒中漆(黒漆)塗り


@
ー中塗りは上塗りのための準備であることは言うまでもない。そのために上塗りで予定している色と同じ色の漆を使う。今回上塗りは呂(黒)色漆塗りである。中塗りは黒漆(または黒中漆)で塗っていく。新漆においては上記の(2) 下塗り欄で触れたように、下塗りと中塗りは区別せず黒漆だけで塗ってもよい。


A
ー中塗りは下塗りよりも厚めに漆を塗っていくが、最大に注意を要することは「縮み」が出ないようにすることである。先にも触れたように「縮み」は、厚く塗った漆がその大きな収縮によって、周りから漆が所々に集まって小山のようにせり上がる現象である。山の上は乾いているが、その表面したは乾ききっていない。この現象が出て来たら、荒目の砥石か使い古しの目の丸くなった金属製ヤスリで研ぎ剥がすしか手はない。そののち、元に戻って下塗りからやり直しである。


B
ーこれも下塗り同様、[塗る→乾かす→研ぐ→塗る]の連続である。研ぎの材料は進行に応じて、[朴炭→駿河炭]、[耐水ペーパー#1000〜#1500]へと目を落としていく。


C
ー中塗りから上塗りへ移る潮時は、塗面が艶の消えた落ち着いた色になった時である。調べるためにラップを指に巻いて触ると、まったくと言っていいほど凹凸が感じられない。これだけでも本漆であろうが新漆であろうが、漆の光沢の美しさにうっとりする。

 

(4) 中塗り(同じく写真4とD)−2
 呂色漆塗り (和竿の場合Dから)


@
ー梨子地蒔絵は、漆黒の夜空に浮かぶ金色の星々を再現しようとしている。そのために上塗りは、黒漆(有油)や黒中漆ではなく、文字通り漆黒を出すにふさわしい呂色漆(無油)とする。新漆では、中塗りで用いた黒漆で十分効果があげられる。ただし漉し紙を5,6枚重ねて不純物を取り去る必要がある。


A
ー上塗り専用の刷毛があると理想的である。毛先が詰まっていて、やや固めの刷毛が向いている。毛先が太く柔らかめの刷毛は「刷毛目」が出やすい。


Bー一回塗って理想的な塗面であれば完成であるが、納得がいかなかったら目の細かい研ぎ材料で研いで初めからやり直す。駿河炭、耐水ペーパー#1500〜#2000で研ぐ。



 [左から] 粉筒を使って銀粉を蒔く、耳かき毛玉を使って簡易銀粉を蒔く

               
 
(5) 銀粉を蒔く(写真6)


@ー次に呂色漆が乾かないうちに銀粉を蒔く。漆が乾くか、乾かないかの境目で蒔くことが理想であるがその境目はいつか判断するのは専門的すぎるので省く。


A
ー粉筒または毛玉は、塗面より高さ約20cmの所から蒔く。粉筒は網目を下にして、指で胴を叩きながら蒔いていく


Bー
上記のように夜空の星々の風景を表わそうといているのであるから、あたかも小雪が舞い降りていくようにする。初めてやる場合は、練習用の竹で試すことをお勧めする。上述のように銀粉を蒔きすぎて失敗することが多いからである。


Cー最低2日漆室に入れて乾かす。 新漆では室に入れなくてよい。       


Dー乾いたら流水(水道水)の下で、女性の化粧用刷毛を使い余分な銀粉を洗い落とす。化粧用刷毛でなくとも柔らかい絵の具用の刷毛でもよい。

 

7)胴摺り(写真8)
ー塗面を研ぐ


@ー梨子地漆を塗っただけでも、きれいな蒔絵になっている。これを更に艶のある光沢にするためた最後の段階で生正味漆による「呂色磨き」を行う。そのための研ぎである。


A
ー駿河炭で研ぎ、次にややわらかい呂炭で研ぐ。塗面の仕上がり具合が良い場合は、呂炭のみでよい耐水ペーパーは#1500〜#2000。


B
ー炭足を消すために、塗面に薄く植物油を付け、胴摺粉(どうずりこ)やコンパウンドを付けて磨いていく脱脂綿を用いるとよい。


Cー塗面の油分を石鹸と流水で洗い流す。これで「呂色磨き」の準備が出来たことになる。

 



(8) 呂色磨き(写真9)ー艶を出す

呂色磨きの方法については、下記の Y 漆に艶を出す〜下塗りから呂色磨きまで(艶の出し方)の欄に記述があるのでその項を読んでくだされば幸いです。





ー終わりにー



簡潔に記すことを心がけ、必要最低限の事だけ選んだつもりがこんなに長文になってしまいました。初めて取り組もうとしている方が、このような複雑な工程ならばと敬遠することがありはしないかと気がかりです。文字に表わすと複雑のように見えても、実際に試行してみると実に楽しい作業と感じられるのではないでしょうか。先人達が築き上げた技法を是非お試しください。


漆塗りについて良くわかる本
「日本漆工の研究」 沢口吾一著   美術出版社
「漆芸の伝統技法」 佐々木 英著  理工学社                               
「津軽塗」       望月好夫著   理工学社                              

                             


                               
 

3 簡単な漆の研ぎ出しと呂色磨き
                                               

[立体的な画像を得るために「山立て」を通常の1.5倍にしています。そのために山を埋める塗塗りの回数が増えています。

〜初めに〜

漆の研ぎ出し法は、研ぐ→塗るの連綿とした作業を根気よく行えば、巷間で思われているような難しさはありません。
※ 用意するもの:呂色漆、乾いた布、仕掛けヘラ(個人の好みで)、水少々(または卵白)。

※ 塗面は平坦で強固な面が出来ていることを前提とする。


 [叩き漆の道具]


             

 
1 下地作り(写真1)



@
ー定盤(またはガラス板)上に適当な量の呂色漆を出しておく。溶剤は使わず、水少々(または卵白)を
漆に混ぜて大きめのヘラで円を描くように撹拌する。徐々に「鳥もち」のように粘りが出てくる。粘りが足り
ないようであれば水を加えていく。(絞り漆ーしぼりうるし)


A 
間を置かずに塗面に刷毛やヘラを使って平均に配っていく。次に仕掛けヘラや硬い布で塗面を上下に叩いたり、ねじたっりしていくと凹凸の山立てが出来てくる。山の高さは不均衡でよい。漆室で乾かす。(叩き漆ーたたきうるし)


* 配った絞り漆が厚すぎると、必ず山の下に「縮みー漆の収縮でせり上がり、中は乾いていない」が出
来てしまう。この時は全部剥がしてやり直しである。


★ 以下は刷毛を使った漆塗りの作業となる。漆室で乾かすのは自明のことなので一回一回その表現
は省略する。また漆は漉すことを前提としているので、必要な時以外この表現も省略する。

2 下塗り(写真なし)

絞り漆は巌のように固く、乾けばこのままで十分であるが、更に強固にするために生漆(瀬〆漆で可)を
塗ってもよい。


3 中塗り(写真2)ー(塗り5回)


@ー
中塗りは、上塗り漆を何色にするかで左右される。今回は上塗りを朱色にするので透中漆(すきなか
うるし)にする。上塗りが黒色であれば、黒中漆となる。塗面は相当荒れているので、刷毛は上等なものではなく使い古しの毛先の丸くなったものでよい。


Aー塗った後の研ぎは朴炭(ほおたん)を使う。耐水ペーパーであれば#800〜1000。耐水ペーパーを使う時は指先にペーパーを当て研磨するのでなく、例えばキャラメル大の木片にそれを当て研磨するこうすることにより、塗面全体が均等のに研磨される。


4 上塗り(写真3)
ー(塗り5回)


@ー梨子地漆(朱合漆でない)と、それと同量の朱顔料を出す。溶剤を少々加えながら顔料を寄せては撹拌し、この繰り返しで全体に顔料をなじませる。このまま2,3時間置くのがよいが、すぐ漉し紙(こしがみ)3,4枚で朱漆を濾す。茶碗に入れて渋紙(しぶがみー柿渋を塗った紙)で蓋をするのが通常であるが、量が少ない時はラップに落とし厳密に空気が遮断できればそれでもよい。


A
ー塗りに入る前にもう一度朱漆を漉し紙3,4枚で濾す。刷毛に漆を付けて、塗面の所々に配ってから
刷毛を上下左右に柔らかく動かして均等の厚さに塗る。


Bー
研磨は朴炭や駿河炭(するがたん)を使う。耐水ペーパー#1000〜1500。上と同様平らな木片に
に当て研磨する。 



 5 研ぎ出し(写真4)


@ーこの時が一番心躍る時である。山立てした呂色がどのように模様として表れるか楽しみである。これには失敗も成功もない。個人の好みである。


A
ー研磨材は上と同様でよい。叩き漆の山々はそぎ取られ、平野になっていく(写真の黒い部分。)


6 呂色磨き(写真5)

これだけでもきれいな模様が出るが、更に呂色磨きを行い艶のある光沢を出す。その前に胴摺り(どうずり)という作業がある。


@ー胴摺り

* 塗面は何回もの研磨で相当表面が荒れている。塗面に薄く植物油を付け(付け過ぎたらティシュで拭き取る)、その上に胴摺り粉や砥の粉、コンパウンド
を少な目に付ける。

* ネル布で磨くのが良いが、柔らかな白地の布地ならばよい。少し指先に力を入れて磨いていく。磨き上げたあとは塗面は艶なしの状態になっているはずである。石鹸で油分を落とし乾かす。


A 一回目の呂色磨き(漉し紙3枚)

* 生正味漆(きじょうみー艶出し用漆)を出す。溶剤は1,2滴でよい。真綿またはティシュに漆を付けて円を描くように塗っていく。

* 拭き取り専用紙またはティシュで完全に拭き取る。 乾いたら塗面に薄く植物油を塗り、指先に角粉(つのこー鹿の角の粉)またはコンパウンドを付けて磨きあげる。指先の指紋で磨くのが一番良いが、脱脂綿でも良い結果が得られる。


Bー二回目の呂色磨き(漉し紙5枚)
作業は同上。溶剤は少々。


C
ー 三回目の呂色磨き(漉し紙7枚)
作業は同上。溶剤は少々。
(草摺り磨きの方法があるが、高度の技なのでお勧めできない)

 
〜終わりに〜

説明が長いので複雑で手間のかかる塗りのように思われることを心配します。絞り漆で山立てさえできれば後は、流れ作業のように進んでいきます。研ぎ出し法を身につければ、技は大きく発展します。将来的には津軽塗(唐塗)、青貝を研ぎ出す若狭塗、そのほか貝の殻の研ぎ出し、松葉の研ぎ出しなど応用が効くと思われます。



 

4 平文(ひょうもん)模様ー螺鈿(らでん)模様にかえて
 
〜初めに〜

平文とは金属板(金、銀、アルミ板)を張り付けたり、埋め込んだりして模様をだすやり方を言います。あまり和竿の飾りには使われていません。手元にご紹介に足る薄貝がないことが実相です。
普段私が使っている薄貝は0.2mm、ここで扱うアルミ板も0.2mmと同じ厚さです。ですから金属板を
使いますが、ほぼ貝を使った螺鈿模様作りと考えていただきたいと思います。夜空に浮かぶ星をイメージして塗っていきます。

 
準備
     アルミ板              裏に和紙を張った薄貝


                  
  


(1) アルミ板には毛彫りをして金粉を蒔く。本来はすべての漆塗りが終わってからの作業であるが、星形の先端が見えやすいようにするため。(薄貝の場合毛彫りはしない)


(2) 和紙で補強した薄貝を下書き線に合わせて針で切っていく。


(3) 金工用糸鋸を使用。刃は00号または0号。


 


 下地作り・下塗り金属板(貝)を付着する(写真@)


(1) アルミ板を二種混合液で付着する。貝の場合は裏の和紙を剥がし、紙やすりで軽く研いでから漆を塗って張り付ける。


(2)
錆漆(さびうるし)をアルミ板(貝)の高さまで塗り付ける。表面に錆がついたら、綿棒を使って拭き取る。錆が硬く取りにくい時は、綿棒に溶剤を含ませて拭き取る。


(3)
錆漆が完全に乾いたら(2日ほど)、生漆(瀬〆漆)を塗って固める。金属板(貝)の上の漆が気になるようだったらまた綿棒で拭き取る。
塗面をスルガ砥石.・朴炭 または耐水ペーパー(#800)で研磨する。板の上にはなるべく砥石がかからないようにする。


*錆漆〜砥の粉(砥石を切り出す時に出る粉)1、生漆(瀬〆漆)0.5、水0.5
*錆漆(新漆の場合)〜砥の粉1、透明ウルシ0.5
(いずれも大体の目安とお考えください)
(砥の粉や研ぎに使う各種炭は漆芸店で扱っていますが、東急ハンズでも販売しています。手頃な値段です)

 
2 中塗り黒漆を塗る・研ぎ(写真A)

(1) 中塗りを2,3回行い、その間駿河炭や耐水ペーパー(#1000〜#1500)で研いで塗面を平らにしていく。

(2) 研ぎには駿河炭や木組み入り耐水ペーパーを使う。平らに研いでいくと、どこかに窪みが出てくる。窪みは錆漆で埋めて平坦にする(写真Aの白っぽい部分)。(乾いたら生漆を塗って固める)

                          


3 上塗り呂色漆を塗る(写真B)

(1) 夜空をイメージするために黒漆を塗る。この後の作業で「呂色磨き」を行うので、その作業にふさわしい呂色漆を使う。新漆では黒漆を刷毛目が出ないように塗る。
(呂色漆〜油分を含まない黒漆。乾くと塗面が艶消し状態となる。呂色磨きを行うために使う。)


(2)写真Bのように板(貝)に漆が塗られても,後の作業で研ぎ出しを行うので漆ははがれていく。しかし
塗りの度に綿棒で板(貝)の漆を除去するのも良い。

 
4 研ぎ出しと呂色磨き
〜(写真C)


(1)
駿河炭→呂炭(ろたん)と炭の硬さを落としながら研磨していく。耐水ペーパーでは#1500→#2000となる。この時板(貝)を傷つける心配があれば、対象物の形(ここでは星形)そのものを和紙で切り取り糊で張り付けてから行う方法もある。


(2
)新漆では研ぎ出した後、溶剤で薄めた漆を形を避けるように塗っていく。


(3
) 本漆では呂炭で研ぎ出したあと、油と砥の粉を混ぜて行う胴摺りという作業がある。


4)胴摺りが終わったら呂色磨きに移る。

*胴摺りと呂色磨きについては、8 漆に艶を出す〜下塗りから呂色磨きまで (艶の出し方)の欄に記述があるのでその項を読んでくだされば幸いです。


〜終わりに〜

慎重を要する時間のかかる作業であったが、終わってみて楽しかったというのが感想です。夜空に浮かぶ星をイメージして塗ってきましたが、それが出ているか見る人によって違いがあるでしょう。もしかして青貝でやればもっとイメージ通りになったかもしれない。
 


5 ななこ塗り
(津軽塗の一種)

〜初めに〜 

津軽塗は「馬鹿塗り」と呼ばれ、軽視とも賞賛ともとれる言い方をします。この称号のようにとにかく根気第一です。それだけに成功の暁には見事な模様となってあらわれます。
制作工程は数多くの経過がありますが、それを一々取れ上げると煩雑になるので、大事な四つの面だけにしぼりました。




[図1]
 

  [図2] 

            

                 

ななこ塗りの下塗り漆は、水分量が8%前後必要とする。[図2]の@のように種上に漆が登っていくほどの柔らかさが求められる理由による。市販の透明漆・梨子地漆は水分量は2〜3%である。そこで生漆を赤外線ランプで温めつつ撹拌して、生漆の水分量20%前後から8%前後まで落として適合の透明漆を作っていく(素黒目漆)。

この素黒目漆に朱の顔料を混ぜて朱漆を使うが、普段梨子地漆で朱漆を作る時より半分程度の顔料の量で良い。またこの朱漆は中塗りよりも厚めに塗る。厚めに塗ると「縮み」が出やすくなるので、室の湿度は60〜70%に保っている。


 @ 種を選び、蒔く

種をいろいろ試したが、小松菜のそれが円形で大きさもほど良いことが分かった。種を目の細かいフルイで選り分けたあと、更に円形の物を選抜する。選別の終わった種を朱漆の塗面を傾斜をつけて置き、上から軽く落とすように種を蒔いていく。

   
 
                  



 
A 種をはがす


二昼夜ほど室で乾かしたあと、ヘラで種をはぎ取っていく。はぎ取った跡には[図1]、[図2]Aのように円形の外輪山のような形が見られる。ここでは山の上がギザギザ状態なので、次の塗りの準備のために
砥石で上を軽くなでる様に研いでいく。[図1]、[図2]Bのようなクレーターになってくる。


B 上塗りをする


今回は黒地の上に朱色の輪郭を出すので、黒漆(呂色漆)を塗っていく。呂色漆を使うのは、最後の磨き(呂色磨き)によって発色と艶を出すためである。

 

C 研ぎ出しと呂色磨き

[朴炭 →駿河炭→呂色炭→胴摺り→呂色磨き]の工程を経て完成。この方法については、 Y 漆に艶を出す〜下塗りから呂色磨きまで(艶の出し方)にて詳述。

研ぎ出しをやり過ぎると、クレーターがつぶれてただの丸い赤点になってします。研ぎ出し材を剛から軟へと変えていくタイミングがむずかしい。小面積を研いでは布で研ぎ汁を拭き取り様子をみて、良かったら次に進むという流れが必要となる。

 
〜終わりに〜

根気のいる塗りですが、一連の作業はたのしいものでした。Cの研ぎ出す時には、どんな紋様が現れるのか楽しい緊張の一瞬です。和竿にななこ塗りを試みようとする人には参考になると思い掲載しました。
 


6 若狭塗


 

〜初めに〜


若狭塗は箸や棗(なつめ)、盆などに加飾され、その美しさから日本代表する塗り物として知られています若狭の特色は下地に貝、卵の殻、松葉などを配置して上から色漆数種類と金箔、銀箔をあしらって最後に施したすべてを研ぎだしていきます。研ぎ出しに成功すればそれまで塗った漆が少しずつ垣間見えて美しい模様となってあらわれます。

今回はアワビの真珠層を切り取って、下地に張る方法で塗ってみました。


 

@ー
真珠層を切り出す。酸性の液体の中に殻つきのアワビを入れて、2,3時 経ったころかたい毛の歯ブラシで外の殻を削りとっていく。流水の流れを当ててやると汚れがきれいに落ちる。
真珠層の裏の面、つまり下地につける裏面は細かい凹凸をやすりで作り接着効果を高める。今回は膠液で接着した。
表の面はあまり平らにすると光の乱反射が失われてきれいに発光しないのでほどほどのやすり削りとす
る。


Aーどんな接着剤を使おうと、貝と下地面の間にはかすかな隙間が存在してしまう。これは後で貝がはがれる原因となるので、上から横から黒漆(生漆でも)を塗って二次的な接着剤とする。 


B〜Dー緑、朱、黄色などの色漆を塗っていく。順番を変えたり、他の色も加えたりするのは個人の好みである。
色漆は他の分野の中塗りよりもさらに厚く塗るため貝の外縁に「縮み」が出やすい(縮みー漆がしわしわの小高い山のようになってしまい、内部は乾いていない) 。しばらく部屋の空気にさらした後で、湿度の弱い漆室に入れたほうが良さそうだ。

〜色漆を作る時の顔料割合については次の本が参考になる。
  理工学社  望月好夫著 「津軽塗」


Eー銀箔を張る。金箔は高価なので銀箔を張って、乾いたら上に梨子地漆を塗ると金箔の代わりになる

箔とは言え金属なので漆との相性は悪い。生漆を塗り室に入れて10分程度経った段階で取り出して、息を吹きかけてみる。塗面が白く見えるときはまだ箔を張る段階ではなく、白い息が青みを帯びてきたらこの段階が箔を張るタイミングである。

あらかじめ切り取っておいた箔を切り紙と一緒に箔はさみでつまみあげて、静かにおいてやる。それができたら脱脂綿を切り紙の上からそっとまんべんなくたたいてやる。切り紙を取り除いて漆室に入れる。一週間ぐらい乾かすのに時間を要する。
その後水道で水を流しながら脱脂綿で箔上をなぜると余分なものが取り除かれる。
 

Fー
銀箔の上に梨子地漆を塗る。梨子地漆に溶剤が多いと溶剤が原因となって箔に穴をあけてしまうことがある。
梨子地漆自体が飴色をしているので金箔のように輝く。  


G-完成品の基調となる色が黒ならば呂色漆を、赤を基調をするなら梨子地漆に朱顔料を混ぜた漆を塗る。
 

LastH  研ぎ出し

スルガ砥石⇒朴炭(ほおたん)⇒駿河炭⇒呂炭,、これら砥石を使って荒研ぎ⇒中研ぎ⇒仕上研ぎをする
片手に布地を持って研いだらふき取りの繰り返しから上に飛び出ているアワビ貝の表面が研磨、厚さが薄くなり徐々に周りの塗面と高さが等しくなっていく。
このあたりで一番柔らかな呂炭を円を描くように貝表面、外縁の塗面を研いでいくが布地で何回もふき取って自分の考え通りの模様になっているか確かめながら進める。


理想の色が出てきたら次は発光と艶を出すための「呂色磨き」を行う。当ページの「V 簡単な漆の研ぎ出しと呂色磨き」をご覧いただきたい。

 
〜終わりに〜
若狭塗は根気がいる塗りであるが、出来上がった時の輝きはほれぼれするほど美しいものです。是非ご自分の竿にもこの塗で飾ってください。
 


7 グラデーション


〜初めに〜

朱色と黒とのグラデーションは、朝焼けの空を思い起こさせる風景になります。この風景を作るためにはいろいろな技法がありますが、私は二色を同時に塗っていく方法で作っていきます。何回も試行錯誤を重ねて初めて成功する技と思います。
 
 

 
@ー透明漆を中塗りとして使う。ここでは朱色と黒の間に見える透中漆を使った(写真は研ぎを終了した後の色)。
塗面を三等分として考え、上1/3に朱漆を、下2/3程度を黒漆を同時に塗る。


Aー
絵具刷毛を朱漆用1本、黒漆用1本を用意する。朱漆を上からしたへ、黒漆を下から上へ塗っていく。塗面中ほどで両色は混合させる。中ほどの面積において朱色が目立つようであれば、黒漆をさらに下から上へ塗っていく。
ほぼグラデーションとなって来た所で、全体の塗面を刷毛で右から左へ、そしてその反対へと横向きに刷毛を運び漆の厚さが均等になるようにする。

Bー漆室に入れて十分乾いたら塗面に「呂色磨き」を行う。 呂色磨きについては、 Y 漆に艶を出す〜下塗りから呂色磨きまで(艶の出し方) にて詳述してあるので、そちらを参考にしていただきたい。

 
〜終わりに〜
グラデーションが意に沿わないようであれば、全面的に溶剤を用いて消し去り、最初の@からやり直すことをお勧めします。曙の風景をだすことは容易ではなく、何回かやり直すことが必要な塗りだと思います。



 8 漆に艶を出す〜下塗りから呂色磨きまで(艶の出し方)
 
〜初めに〜


「御質問に答えて」のコーナーにおいて、「艶の出し方」の相談を受けたことがこの欄を起こそうとした動機になっています。
黒漆に艶を出すには二通りの方法があります。

(1)塗立法


「塗立漆(有油の一般的な黒漆で代用できる)」を使った刷毛塗り。ただし、刷毛目が出ないように塗ること塗面の粟粒の発生を抑えることなどにより、豊富な経験と高度な技術を必要とされます。

(2)呂色磨き

「生正味漆」を最後に塗って艶を出す方法。おもしろいことに一旦上塗りした漆を艶消ししたのち、この漆を塗って艶を出します。さらにおもしろいことは、最後に艶を出す時は指の指紋で研磨します。指紋をヤスリとするのです。今回はこの「呂色磨き」法をご紹介します。
またいままでの漆塗りに関するページには研ぎについての記述が少ないきらいがあり、ここで失地挽回して研ぎを重点的に書いていこうと思います。  
  

 [その1]  
 
[その1]


上の図は、下塗りから艶を出す呂色磨きの工程を記したもの。大の凹凸からどのようにして凹凸のない、艶のある塗面を作っていくか概略を記したつもりである。もちろんその目的のためには研磨という大切な工程を経なければならない。私の経験の範囲では、刷毛塗りよりも時間だけの比較では研磨時間が長い3:1の比で研磨に時間を掛けている。

 
[その2]〜研磨の仕方と用具]

            


          

   
@ー竿の場合

スルガ砥石、炭(朴炭 ・駿河炭・呂炭など)、耐水ペーパー(#800〜#2000)などを使う。竿の円形に沿った研磨剤を使う。下地作りや下塗りの段階では少々強めに研いでも塗面を痛めないが、中塗り・上塗りでは柔らかい研ぎ方が必要となる。

Aー板の場合


ここでもスルガ砥石、炭(朴炭 ・駿河炭・呂炭など)、耐水ペーパー(#800〜#2000)などを使う。傍らに水、固い砥石を置き、水で濡らした研磨剤を砥石の滑らせて平坦にしてから、対象の塗面を研磨する。研磨剤を小さな円を描くようにして研いでいく。片手に乾いた布を持って研磨しては、布で拭きとり様子を見て、更に研磨が必要であれば作業を続ける。

Bー胴摺り(どうずり)


[道具の準備ー砥の粉・植物油・布地]
胴摺りに入る前に、塗面を駿河炭と呂炭で研いで目で見て凹凸がほとんどないようにしたうえでの作業となる。耐水ペーパーでは#2000。
これからが塗面に光沢と艶を出す仕事となる。B、Cの写真は板状の物で磨いているが、竿の場合もこの工程と全く同じ内容と考えて良い。

塗面に植物油を薄く塗ってうえで、この段階の研磨剤である砥の粉(砥石を切り出す時にでる粉)を軽く撒いて布地で円を描くように研いでいく。やや手に力を入れて研いでいくうちにごくわずかの凹凸が取れて平坦な塗面が現れてくる。結果の良し悪しは油分を石鹸で拭い取り水洗いをすると分かる。艶消しの状態になり、水が塗面から落ちていく。水洗いしているにもかかわらず、塗面に水気がないようでであれば成功である。水気が面に残るようであれば、まだ凹凸があるので更に胴摺りが必要となる。

 
C呂色磨き(ろいろみがき)1
ー生正味漆(きじょうみうるし)を塗る

胴摺りが終わったら、生正味漆を真綿にしみ込ませて円を描くように摺りこみ、すぐ拭き取り専用紙(ティシュペーパーで代用)を使って完全に拭ききってしまう。漆がかすかな凹のへっこみに入り込む。終わったら室に入れて乾かす。


 


 C呂色磨き(ろいろみがき)2−角粉(つのこ)で磨く

上記の写真Cのように塗面に薄く植物油を塗り、指に角粉(コンパウンドで代用)を付けて円を描くように磨いていく。終わったら石鹸で洗い塗面の油分をとる。
生正味漆漆塗り→乾燥→呂色磨き→洗浄。これを通常3回繰り返す。
以上の作業で塗面は平坦になり、光を正反射させ鏡のようになり艶と光沢を出す。

  
〜終わりに〜


和竿作りにおいて艶の出し方を書いてきましたが、これで良いのかまだ書き足りないことがあるのではないかと一抹の不安を持っています。もしこれを参考に呂色磨きをやってみようという方が一人でもいれば望外の喜びです。
 



9 卵殻を張った変わり塗り
 
〜初めに〜


漆塗りのおもしろい所は卵の殻も飾りとして使えることです。殻の白色と面の黒色のコントラストが見えてほどよい絵をなります。

 

 【1】〜裏に色を塗る
              
                 


@−卵の殻を乾かし薄い膜も取り除いた後、表と裏を区別するために、裏側に色漆を塗って準備しておきます。


A−これをラップ二枚の中に入れて、、指や円形の物を使って押して割り細分化します。中の殻が表と裏が逆転しても後で調整できるので気にしなくても良いです。

  

 【2】〜地描き(図案・四分音符)

                 



@−
図案を書く前に絵具の液体となる「焼き漆」を用意しておきます。大さじに色漆を溜めて、それを火にかざして沸騰したところで焼き漆の完成です。この漆は乾くのに長い時間が掛かり、その間当漆を用いて絵を書いたり、塗面に色を付けたりすることができるので便利です。


Aー貝を張る図案が決定したら、図案を裏返しにしてその上に美濃紙をおきます。薄い美濃紙を通して図案が見えますから細筆で線を丁寧になぞっていきます。筆に漆を付け過ぎてなぞった線が山のようになると、次の「写し」の時に線が横に広がって見にくいものになりますから注意が必要です。                            
   
 
【3】〜写し
                 

@−塗面はあらかじめ研磨炭や耐水ペーパーで研磨しておきます。これをやらずに行うと写す絵も定着しません。


A−
絵や線を描いた紙を素早く塗面に乗せて、木のヘラや指で押して塗面に写し取ります。この際押している指に力が入り過ぎると線が太く広がってしまいます。ここは経験を重ねるしかありません。

 
【4】〜殻を張る
                 

@−線を写し取ったらその内側を「焼き漆」を使って塗っておきます。焼き漆は乾くのに時間が掛かる分、ゆっくりと色を付けて行くことができます。

A−あらかじめ細かくして置いた卵の殻(表側)を楊枝の先を付けて貼り付けて行きます。

               
 
5】〜完成(順序)
        
         


@ーー殻の貼り付けが終わったら、これを更に塗面に定着させるために上に生漆を塗ります。透明漆でも効果は同じです。卵の横、下などの漆が乾くには時間が必要になりますので、漆室の中で4,5日置くのが得策でしょう。


A及びBー乾いたら室から取り出し黒漆(黒中漆)を塗り重ねていきます。
一回漆の塗る厚さは0.01mm、殻の厚さは0.4mmですから、殻と周りの面を平坦にするためには相当漆を塗り重ねなければなりません。もちろんその間には前に塗った漆を研ぐ必要があります。


{別の方法}〜漆の塗り重ね回数を短くするために「錆漆(砥の粉1、生漆0.5、水0.5の目安)」を作り、殻の外側面をこれで覆うという手もあります。錆漆を塗る時は刷毛を使わずに、ヒノキヘラを使うと平坦な面が出来上がります。この漆が乾いたら上に生漆(または黒漆)を塗って固めます。固まった所で砥石や耐水ペーパー(#400〜800)を使って平らにします。
ここから更に黒漆を塗り重ねていきます。


CLastー殻の厚さと周りの面が平坦になった所で一応の完成です。今後は面の輝きを出すために「呂色磨き」を行います。呂色磨きについては、  「Y 漆に艶を出す〜下塗りから呂色磨きまで(艶の出し方)」において詳述してありますのでそちらの項を参考にしてください。

       
 
〜終わりに〜


殻を張る場面は子供でも楽しめる作業です。しかしその後は塗り⇒研ぎ⇒塗りの連続で根気を必要とします。完成した時は今までの苦労を忘れるほどデザインを楽しめます。

 


【番外】〜漆焼け


 

 
@ー
籐巻の右側で漆焼けを起こしてしまいました。中塗り工程で黒漆を塗ったにも拘わらず茶色に変色しています。

冬季に漆を乾かす手段として私は、室の中に小型の電熱器を入れて温度管理をしています。温度計、湿度計を時々観察しては、発熱させたり、電源を切ったりしていますが、この時は管理が行き届かなかったものです。漆室内部、温度30度以上、湿度90%前後になっていたと思われます。

Aー漆室の代わりに家族風呂で漆を乾かす方法を教えてくださいと質問を受けたことがあります。風呂の残り湯の蒸気で漆を乾かそうというアイデアでしょうが、私には経験がなく温度、湿度管理の方法に自信がないので答えは控えさせていただきました。多分、今回紹介したような「漆焼け」が頻繁に起きてくると予想しています。

Bー修繕は研ぎを強めにやらなくてはならないでしょう。駿河炭⇒朴炭、耐水ペーパー#1500⇒1000、となるでしょうか。
 

10 漆塗り〜刷毛の運び
   
★刷毛目を出さないように漆を塗るにはかなりの経験が必要となります。塗面の研磨状況、刷毛の良し悪し漆の硬さ、刷毛の運び方、漆室の湿度の調整などこれらすべてが関係してきます。ここでは刷毛の良し
悪しと刷毛の運び方だけを取り上げます。



                 


刷毛の毛が抜けて先がまばらになると、塗った跡は当然のように刷毛先の漆液が塗面に付く所と付かない所が出てきます。刷毛目が出る原因の一つになります。絵の具筆を使うとこれと同じ状況が生まれます
             
  


刷毛目が出る、出ないに関係なくまず塗面は厚くもなく薄くもなく均等に漆が配られることが大切になります

@〜まず漆液を塗面の4,5カ所に置いたら円筒形に沿って360度塗って行きます。

A〜次は漆液が均等になるように右から左へ漆を運びます。ここでは右端に漆が厚く積もる傾向となります。

B〜最後に右端から始めて左先端まで刷毛を運びます。大体これで均等になります。この1→2→3の工程をもう一度繰り返して塗るともっと良い塗面になります。

 

11 錆漆(さびうるし)の扱い

 
@〜錆漆を作る〜砥の粉1、生漆0.5、水0.5の割合で混合して作りますが、この配合率は目安と見て頂きたいと思います。新漆では透明漆を使うといいと思います。

A〜用途〜木地(竹も含む)の凹部分に錆漆を塗り込んで平坦な面を作るのに役立ちます。また中塗り後
研ぎが終わって,なお凹みがある場合、部分的に錆漆を塗る事があります。

B〜写真左側は錆漆の作れたての様子です。右側はその6,7分後の様子です。錆漆に使う生漆は酸化の早い漆ですから、瞬くまに乾いてだんだん固くなっていきます。使用には堪えません。これを防ぐために山なりにして表面は乾くのに任せ、その下にある錆を使います。特に今日のような梅雨時は部屋全体が「漆室」となっていますので、十分注意を払う必要があります。

(生漆が微細な砥の粉と交る時、生漆成分が分断され気体となってあたりに漂います。良い漆の匂いがするはずです)

 

 12 三角模様


ヘラ竿の握りに、夜空に走る雷のせん光をイメージして模様を描きました。手順は以下の通りですが、フリーハンドで模様を画ける方には必要がないがないと思われます。


(1)黒漆を使って中塗りをして、乾いたところで研ぎをします。

          


(2)鋭角の三角形の紙の型を4枚張っていきます。

           


(3)紙の型を含めて全体に呂(黒)色漆を塗ります。呂色漆を使う訳は、最後の段階で呂色磨きをするためです。

          



(4)紙の型を外してから、型の外側にテープを張ります。

           
 

(5)テープ内側に朱漆を塗ります。

          



(7)(6)で出来た三角より3分の2小さい三角形を4つ、、上記の方法と同じ経過を経て朱で塗ります。

          
 

(8)呂色磨きをして艶と光沢を出します。呂色磨きの手法は、今ページに記してあります(Y 漆に艶を出す〜下塗りから呂色磨きまで)。

          




13 研ぎ考


〜初めに〜

このページにおいて何か所か研ぎの方法を説明してきました。今回は以前の説明と重なる部分がありますが、研ぎについてまとめて、また新しい視点から説明したいと思います。

「丁寧な研ぎが、きれいな塗り」を生むことは言うまでもありません。塗りと同等の価値ある仕事であるにも拘らず、なおざりにされている場合が初心者の方に多いように思われます。そのためか、「いつまで経っても自分の思う色が出ない」と悩みを聞かされたことがあります。

初心者の方の為に研ぎの道具、研ぎの手わざ、そして順序等をまとめていきたいと思います。


▲ 「呂色磨き」で使われる特別な研磨は省きます。もしこの方法を知りたい方はは当ページ「8 漆に艶を出す〜下塗りから呂色磨きまで」をご覧ください。


▲ 本漆を使っていますが、新漆においてもほぼ同等の作業手順とお考えください。
 

▲ 説明を分かりやすくする為に、平板の板を見本として使いました。竿のように円形の場を研ぐ事と同等と考えてください。



(1)〜道具


        
  

@−研磨剤(炭の場合)

研ぎ炭の種類には、朴炭(ほおたん)、駿河炭(するがたん)、呂炭(ろたん)があります。最初の炭から、下研ぎ用、中研ぎ用、上研ぎ用に使われます。かたわらに砥石を置いて、水を炭につけたら砥石の上で平坦にしてから塗面を研いでいきます。(炭以外にスルガ砥石を使う場合がありますが、これについては説明を割愛します)


A−研磨剤(耐水ペーパー)

写真のような平坦を研ぐ時には、木組みを作りそのサイズに合わせたぺーぱーを裁断して組み込むで研磨剤とすることができます。
しかし多くの場合、竿の塗面を研ぐ時にはペーパーをちぎって丸めて使用していると思います。もちろんその使い方で問題はありません。研磨剤(耐水ペーパー)については、この後詳しく説明します。



(2)〜手わざ

 
        
  


@−直線的な研ぎ

縦でも横でも直線的な研ぎは、中心部が研ぎが深くなり、左右の研ぎは浅くなる傾向があります。当人は均等に研いでいるつもりでも、結果として研ぎむらが出てしまいます。


A−円を描くような研ぎ

直線的な研ぎに対して、円を描くように研ぐとほとんど研ぎむらが出ません。対象が狭い面積であれ、竿のような円形であれこの方法を勧めます。



(3)〜耐水ペーパーの種類

   
        


@−下研ぎ用:#400〜#800


Aー中研ぎ用:#1000〜#1500


Bー上研ぎ用:#2000


▲〜紙ヤスリを水につけると、紙がふやけ、また表面についている研磨剤(砂など)がこぼれ落ちてしまいます。それに対して耐水ペーパー台紙は水を吸収せずにはねかえす性質を持っています。またこのペーパー表面には水に溶けにくい接着剤を使って研磨剤を定着させていますので、容易には研磨剤がこぼれ落ちることはありません。、

耐水ペーパーを使うと研磨された漆が水と共に流れ去り、次の新しい場の研ぎが容易になります。また水を介することにより、摩擦熱が無くなり塗面を深く傷つけることが減っていきます。



(4)〜研ぎ跡


       




▲〜研ぎとは、塗面を鏡のように平らにする事と誤解されることがあります。単純化していえば、大小の凹凸を作る事です。包丁の最終の研ぎが極小のノコギリ刃を作ることである事と似ています。


▲〜3種類を例示しましたが、これで研ぎが終了するという意味ではありません。10回程度、塗りと研ぎが行われるのが普通です。


@〜下研ぎ

最初に塗った塗面(下塗り)には大きな漆の凹凸があります。これを荒目の#800の耐水ペーパーを当てて研ぐと塗面の凹凸の山が削られて、以前より小さい研ぎ跡となります。ここに水を流した後、布でふき取ってもなかなか水気は取れません。凹凸の谷間に水が溜まるためです。


A〜中研ぎ

荒研ぎのあと、更に漆を塗りこみ、研磨を続けていくと凹凸が低くなり中研ぎの段階になります。研ぎが終わり、下研ぎの時と同じように水を流し布でふき取るとまもなく水気はなくなります。


B〜上研ぎ

最後の漆塗りの一歩手前です。細目のペーパーで研いでいきます。同じように水を与えると、塗面から水が流れ去っていきます。この研ぎ跡に最後の漆塗りを行います。



〜終わりに〜

研ぎは、明るい照明の下研いでは布でふき取りの連続です。初心者の方にとっては根気のいる作業と思われることでしょう。でも冒頭でお話ししたように、研ぎが丁寧にできればその後の塗りはきれいに仕上がります。きれいな塗面となる事をお祈りします。



14 青貝を蒔いて模様


〜初めに〜
 
青貝の小片を蒔いて装飾する方法です。以下の方法はこれがベストという事ではなく、短時間で仕上げるひとつの方法と思ってください。

ここでは本漆を使っていますが、新漆を使っても可能です。


(1)

        


▲ 手始めに竹の表面・甘皮をヤスリで除去した後、生漆(新漆では透明漆)を塗ります。表面の木目に漆を浸透させて、次に塗る漆が木目にしみ込まないようにする為です。


(2)
        


▲ 青貝小片を用意した上で、錆漆を作ります。錆漆の作り方については、本ページ・11 錆漆(さびうるし)の扱いに記載があります。錆漆をヘラや素手で塗りつけたら、ある程度塗面を平らにして、それから小片を多めに蒔きます。多めに蒔くのは、最後の段階では小片が塗面の裏側に隠れて見えなくなる物もあるからです。

小片を蒔くときはできたら荒目の粉筒がふさわしいのですが、無い時には素手で蒔くのも一手です。塗面から約30cmほどの高さから蒔き、あまりここに多めなど意図せず自由に蒔いた方が完成した時には伸び伸びしたおおらかさが出ます。



(3)
        

▲ 青貝を蒔き終えたらすぐにヘラ(木ヘラでもプラスチックヘラでも)を用いて表面を軽くたたき、貝を埋め込んでいきます。錆漆はすぐに硬化が始まるので素早く作業を進行させます。


(4)
        

▲ 錆漆が完全に乾いた段階で、スルガ砥石やや耐水ペーパー(#400〜#800)を用いて研磨していきます。 研磨終了の目安は、貝と塗面がともに平面上に水平となる段階です。研磨については本ページ・
13 研ぎ考を参考にしてください。


(5)

        

▲ 次に貝と塗面を固めるために、生漆(新漆では透明漆)を塗ります。漆が乾くと収縮するために、貝が一時的に背が高くなる状態になります。


(6)
        

▲ 漆が乾いたら再び研磨していきます。研磨すると塗面が「艶消し」状態となります。今度は黒漆をぬります。 塗り⇒研磨、これを繰り返していきます。終了の目安は、塗面を手で撫でて貝の凹凸がほとんど感じられなくなった段階です。


(7)


 

▲ 最後の光沢と艶を出すために呂色磨きを行います。呂色磨きについては本ページ・{8 漆に艶を出す〜下塗りから呂色磨きまで}を参考にしてください。
新漆においては、透明漆にいつもより多めの溶剤を入れて良く撹拌してから薄く塗ると上記と同じような効果が得られます。


〜終わりに〜

材料に使った錆漆を作る「砥の粉」も「青貝小片」も手ごろな値段で手に入るものです。「夜空に浮かぶ星々」を演出するために、愛竿に施してみてはいかがでしょうか。





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