矯め木・火入れ

   丹沢湖
 (市川 英之氏撮影)
   
 

1 和竿の強さー火入れ・竹の炭化




ー初めにー

もし山から切り出した竹を簡単な火入れで竹を伸ばし、磯釣りをやったらどうなるか。小物が掛かったら面白いように穂先から元まで曲がりその感触は心地よいものです。しかし大メジナが掛かったらほぼ確実に中ほどから折れてしまいます。

この山矯めのような火入れでは、繊維質や身内部の水分が抜けきれず曲がりは曲がりは楽しめますがが、弾性(元に戻ろうとする力)に欠けます。炭の火という電波に似た赤外線が表皮下まで熱を届かせ、炭素繊維(炭化)に成って初めて強靭さと弾性が生まれてきます。

ガス火はその性質から、燃焼すると水蒸気となりこの熱が竹に当たっています。ガス火は竹表面は焦がしても表皮下まで熱は届きにくい。(ガス器具会社研究員の話)



   
1 青竹(孟宗竹)

 

  
 白竹・晒し竹(布袋竹)ー山矯め
 


 3 最初の炭化(布袋竹)ー下矯め

 

 
4 最後の炭化(丸節竹)ー竹炭
 

  1 青竹(孟宗竹)


一本の青竹を見ても心が清々しくなる。青竹の竹林に分け入ると、青の桃源郷の世界に入った気分になる。雑木林と違いここには虫ややぶ蚊はいない。竹の殺菌作用である。


遠い昔から日本人はその清々しさに心引かれ、正月の門松や花入れ、酒の器、料理を盛り付ける食器として利用してきた。また人々は青竹に清浄という神秘性まで求めてきた。武士の家取り潰しには、門構えに真竹を斜交い(はすかい)に組み、中の穢れ(けがれ)を遮断しようとした。青竹の清浄感が穢れを落としてくれると考えてのことである。刑場周辺を真竹で網代組み(あじろくみ)にするのも同じ考えである。


孟宗竹であろうと、真竹であろうと青竹の時期は、竹の稈(かん)に大量の水を蓄えている。根から吸収された水は稈の維管束(いかんそく)を通して枝へ、葉へと伝えられていく。竹林所有者や一部愛好家の間では、「竹の水」を飲むと健康に良いと考えられているようだ。また「竹の水」は肌につけるとつやつやするようで、化粧品として販売されていることも聞く。それだけ青竹には水分が多い。


伐採された青竹の水分を山矯めの火入れによってほとんど除去されていく。10年も経つと、青竹も茶色の竹に変わり水分も失われて固くなり、弾力性も失われてしまう。竹の寿命は10年とも100年とも言われるが、どれも正しいようだ。ここに竹の用途としての役割は終わりになる。
3 最初の炭化(布袋竹)ー下矯め


表皮からどのぐらい下まで火が入り、繊維質が炭化しているかマイクロメーターで測ってみた。マイクロメーターは0.01mmまで測ることが可能なので、かなり正確なデータが出てくる。

   


 表皮下1.0mmの様子                   表皮下1.8mmの様子




                 





エジソンが京都の竹を炭素繊維化(炭化)して長持ちするフィラメントをつくった事はよく知られている。和竿も炭化させることによって、硬さや弾性が生まれる。青竹よりも晒し竹、晒し竹よりも炭化竹が弾力性、硬さに優れていることは言うまでもない。

①表皮下のどのぐらいの深さまで繊維質が炭化しているのか調べたものである。1.0mmまでは火入れによって完全に炭化している。

②深さ1.8mmのまばらな繊維質まで来ると、火の熱は届いておらず炭化していない。もしここまで炭化していたら、硬さは増すだろうが大変折れやすい竹となるだろう。私の調べた範囲では、和竿としての繊維質の炭化は1.0mm~1.4mm範囲が適当と思われた。

* 今回の調べは、繊維層の厚い太竹で調べた結果である。繊維層の薄い細い竹ではこの限りでないことを明記しておく。


ー終わりにー


火入れを行うと、水分が水蒸気なり、次に油分が分解して表面に現れ、そこから炭化が始まります。そして竹は強靭さを増していく。魚が焼ける時と過程は一緒です。下矯めの折、勘に頼っていたがどの程度の火力で、どのぐらい時間をかけて良いのかある程度目鼻が付きます。

*なお、ガス火で矯めをやっている方は余計な事かもしれませんが、ひと工夫されては如何でしょうか。石綿(アスベスト)を火にかぶせて赤外線を発生させるのが一番だと思いますが、これは肺がん発生の元となるので今は叶いません。代わりになるものとして、セラミックスが候補に上げられます。人工の陶磁器です。最近の台所用魚焼き器にセラミックスを用いた物が普通に出回っています。その工場に電話を掛け聞いた話では赤外線が発生するので魚の芯までよく焼けるということです。



 【欄外】



太平洋戦争中、本土防衛のために婦人会に持たせた竹ヤリ。真竹を斜めに切り込んだだけでは、殺傷能力はありません。切り口を焚火に入れ水分を蒸発させたあと、繊維質の油分を燃やして、つまり炭化させ強靭にして初めて殺傷能力が出ます。切り口は黒く焦げている。

映画で農民に青竹のまま竹ヤリを持たせている場面を見ると、この監督は不勉強だなと思います。歌舞伎界にも映画界にも、小道具係の中に学者並みの勉強家がいることを知っています。監督はその方の言うことを一寸耳を傾ければいいのにと思います。

戦争中の記録映像をみると、もちろん竹ヤリの先は黒く焦げています。竹ヤリは、良くも悪くも日本の文化なのです。






2 火入れの工夫




~初めに~

火入れは竿師にとって一番緊張する場です。私の場合、和竿を作り始めて今日までそれは一向に変わりません。火入れ不足は弾性不足を生み、また過度の火入れは竹を焦がして使い物にならなくしてしまいます。和竿作り初心者の方も、苦労なされていると想像します。(写真は矢竹)








[白竹]~ 山から切り出した竹は、竹洗い、そして火を入れての山矯めをしますが、この竹にはその作業は入っていません。従って原竹の白い竹のままです。



 [写真①]~「 どの程度の火力か、どのぐらいの時間か」ーそれを言うのは困難です。矢竹に限定しても無理です。原竹の竹稈肉質の厚さ、稈が太いか細いかになどによって火入れの程度が変化するからです。また火力を木炭によって得るか、ガス火によって得るかで変わってきます。

それでは目安がないかと言うとそうではありません。竹肌の色の変化で見ます。写真のように竹の肌がきつね色になる程度が適当な火入れと考えられます。この部分は竹の繊維質の水気がある程度拡散して適度な弾性が生まれていると思います。



[写真②]~少しでも油断すると、写真のように竹の地肌が焦げてしまいます。一部でも焦げた竹は和竿としては使い物にはなりません。 

この部分は内部の繊維質の水気がすっかり抜けてしまっています。枯れ枝と同じで、少しの力でもヒビ割れを起こします。



[写真③]~前節でも触れましたように火入れによって繊維質とその下の肉質に熱が届くと当然水気が拡散します。火入れをやっている最中に竹の口から水蒸気となって出ていくのが見られます。この水蒸気の拡散状態によって、さらに火入れを続けるか、やめ時か判断の基準とすることがあります。

水蒸気の出が少なければまだ火入れが必要というサインともなります。ほとんどそれが見られないようでしたら②の部分のように焦げる寸前と判断できます。しかしこう述べても水蒸気のサインだけで適当な火入れを見る事は危険なので注意をした方が無難です



~終わりに~

このように火入れは難しい作業ですが、却ってそれだからこそ”おもしろい”とも言えます。私はこの作業でありとあらゆる失敗をしてきました。それだけに理想とする火入れができた時の喜びは大きくなります

初心者の方も使わない竹で何回練習していくうちに、火入れのおもしろさを実感できると信じています。



 3 火入れによる効果



~初めに~

原竹の表皮の下は、導管(水が通る)と師管(栄養が通る)、その周りを取り囲むように繊維層がありますまた繊維層は内部に水分を蓄えています。

原竹を和竿の用途に使うには火入れ(矯め)を行いますが、その結果表皮の下にはどのような変化が起きているのか大雑把に図解して見ました。





【①拡大図】


表皮の下を拡大した図です。ここでは数えきれない導管、師管、それを保護するように繊維層があります

そしてこれら組織を潤すように水分に満たされています。絹糸に水を含ませると柔らかくなるように、この組織はやわらかく、またしなやかさ(弾力性)があります。

このまま部屋の中に置いておくと自然と水分は抜けていきますが、水に浸すとまた元の状態に戻ります。



【②火入れ】


原竹のままでも延べ竿として釣りに使えますが、しなやかさはあっても強固さに欠けます。        釣り竿とするためには熱を加えて組織の水分を蒸発させる必要があります。蒸発する温度は100度になりますから、この蒸気により硬かった繊維体はぴんーと張った糸がゆるむように柔らかくなります。                      
「矯め木」を使って曲がりを補正するのはこの時です。



③結果】

植物の本を読むと、この繊維層はセルロースという成分からできていることが分かります。熱処理をするとセルロースが化学反応を起こして隙間なく結合して強固な繊維体に変化していきます。

これにより原竹はしなやかさを失うことなく、強固な繊維層を形作って釣り竿としての用途を果たしていきます。                                                          

水分は原竹と比べたら格段の差で消失していきますが、もし完全に消滅したとしたら竹は「炭化」して、つまり焦げてひび割れを起こして釣り竿としての用途はなくなります。




 4 矯め木の作り方



~初めに~

「穂先の曲がりをどのように矯正するか」という御質問を受けて、矯め木作りとその取扱い方を説明する
ことがこの稿のきっかけになっています。穂先の曲がりをご自分の力で直そうとしていう方とお見受けします。もの作りを愛する同志のように感じてこういう方への回答は一段と力が入ります。この穂先がグラスやクジラ穂でないことは分かるのですが材質と曲がった原因が分からないので削り穂と言う前提で補正方法をご紹介します。また10分程度でできる穂先用矯め木もご紹介します。
簡単な矯めをご紹介しましたが、もし問題の穂先が名人作の物であればご自分でやるより買った店に持ち込むことをお勧めします。
最後に。上記にいろいろ数値を示しましたが、人それぞれやり易さは違うと思うので大まかな目安としてお考えください。










        




 
[①・②の図]
~穂先用矯め木の作成
家の隅にでも転がっている固くて細い木であれば、直方体でも円柱でも構わない。竹が通る斜めの穴は25度から30度ぐらいが適当を思わる。③のような分度器と定規が一体のものがあれば便利である。なくても小学生が使うような分度器で代用できる。白紙に30度角度の二本線を引いたら、線通りに切り取り矯め木に当てればよい。幅は2.5cm前後が適当ではないだろうか。
(③の分度器は日曜大工店で扱っている。矯め木を作る時には大変便利である。

[④の写真]

まず印を付けた所にノコギリで適当な深さに切り込みを入れる。開けた溝中に外径の違う丸棒ヤスリを数本用意して置き、太→細へと削って行きある程度(高さの1/2~2/3)の深さまで行ったら完成となる。もし面倒でなければ丸棒ヤスリをガス火で真っ赤に熱して穴をもう一度研磨すると、木の毛羽立ったところが除去できる。

[⑤の図]

弱いガス火の上に魚を焼く網(セラミックが付いたもの)を置き、高さ30cm以上離して穂先を温める。次に矯め木を片手で固定しておき、穂先をその穴の中でしごくように通していく。これを何回かやると真直ぐになる。普段の矯め木の扱いとはまったく逆。
ただ問題の穂先が布袋竹だと事情が少し違ってくる。布袋竹の穂先は節がいくつもあるので、節をヤスリで角張っている所を丸くしてからやるとやり易い。




 ~終わりに~

短時間でできる矯め木つくりをご紹介しました。この方法がベストと思いません。よい矯め木作りがあったらご紹介ください。
穂先の曲がりは、大体が比較的長い距離で彎曲しているものです。そこで矯め木と固定して、その穴の中に穂先を通すという方法と取りました。





 5 矯め(布袋竹)



~初めに~

竹の曲がりを矯める(補正)ために。「てこの原理」の働きを持っている矯め木を使います。ここでは布袋竹の矯めをどのように行えば適切なのか、改めて考えて見たいと思います。

{前提}

*山矯めが終わり、下矯め及び中矯めの場面を想定しています。

*分かりやすい説明とするために敢えて黒竹を用いました。

*竹に火入れが十分行われている事を前提とします。







{支点}~文字通り矯め木の働きを支える点です。ここにもある程度の力が加わりますが、これによって竹が割れることはほとんどありません。


{作用点
}~作用点の働きによって竹の曲がりが補正されていきます。力点に加えられた人の力の何倍も増殖せれて圧力がかかります。(例えば100gの押す力であれば、500gの圧力がかかる)


{力点}
~同じ力の入れ具合でも、作用点に近い所と作用点から離れている所では、作用点にかかる圧力に違いがあります。
一般的には、細い竹は作用点に近い所、太い竹は作用点から離れた所に人の手を持ってきます。







布袋竹のように肉厚で繊維層が濃密な竹に用いられるのが、「押し矯め」(又は、こき矯め)と呼ばれる方法です。作用点の裏側まで矯め木を押すような感じの力の入れ具合です。



竹一本の元(太)から初めて先(細)へと移動します。



節と節の間では、写真のように先から元へと移動します。節間の長い竹では、①→②→③の順に進んでいくと、①と②の矯めの具合が目で分かり③の矯めをやる時に参考になります。









節を矯めて、まっすぐに補正するときに多く使われるのが「しゃくり矯め」です。「押し矯め」は反対側へと押すような力の入れ方ですが、これは一気にぐっと力を加えたらすぐ矯め木をゆるめるような感じと表現できそうです。



節回りは他より肉厚ですから、十分火入れをした上で矯め木を当てなくてはならないでしょう。節の先は少々肉薄になっていますから、ここに作用点を持ってくると多くの場合竹は割れてしまします。








布袋竹の握り部に時々見られる矯め木跡です。握り部は強い火力を比較的長く当てても、なかなか繊維層が柔らかくなってくれません。熱が不十分なまま矯めを行うと写真のような窪みが残ります。



~終わりに~

一度の矯めによってまっすぐな竹に仕上げる(通称:殺し矯め)ことは至難の業です。何百本の矯めをやっているなかで、「ああ、こうすればいいのか」と会得する瞬間があります。その日は美味しい酒が飲める日です。





 

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